アトピーとステロイド
以下のようになっています。
アトピー性皮膚炎の診療の場において、特に治療上の混乱が生じているが、
皮膚科医の多くはアトピー性皮膚炎の病態に即した治療法に疑問を感じているわけではない。
すなわち、アトピー性皮膚炎を皮膚の生理学的機能異常を伴い、
複数の非特異的刺激あるいは特異的アレルゲンの関与により炎症を生じ
慢性の経過をとる湿疹としてその病態をとらえ、その炎症に対しては
ステロイド外用療法を主とし、生理学的機能異常に対しては保湿剤外用などを
含むスキンケアを行い、そう痒に対しては抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤を補助療法として
併用し、悪化因子を可能な限り除去することを治療の基本とするコンセンサスは確立されている。
.薬物療法
アトピー性皮膚炎は遺伝的素因も含んだ多病因性の疾患であり
疾患そのものを完治させうる薬物療法はない。
よって対症療法を行うことが原則となる。
1)現時点において、アトピー性皮膚炎の炎症を充分に鎮静しうる薬剤で、
その有効性と安全性が科学的に立証されている薬剤はステロイド外用剤である。
その他の外用剤では、非ステロイド系消炎剤外用剤(NSAID外用剤)があるが、
抗炎症作用は極めて弱く、接触皮膚炎を生じることがまれではなく、その適応範囲は狭い。
さらに、最近使用が開始された外用剤として、移植免疫抑制薬タクロリムスの外用剤がある。
本剤は、成人のアトピー性皮膚炎のみを対象疾患としているが、特に顔面の皮疹に対しては、
ステロイド外用剤のミディアムクラス以上の有用性を有しており、
一過性の刺激感は高頻度に出現するものの、高い適応がある。
しかし、本剤の薬効はステロイド外用剤のストロングクラスと同等であり、
重症度の高い皮疹では十分な効果が得られない。
また、現時点では小児のアトピー性皮膚炎での適応は有しておらず、
全てのアトピー性皮膚炎の治療に使用しうる薬剤とはなっていない。
もって現時点では、その使用にあたっては
「アトピー性皮膚炎におけるタクロリムス軟膏の使用ガイダンス」(臨皮 53:1057-1068, 1999)
に忠実に従った使用が必要で、その内容が十分に理解できる高度の専門性を有する
医師による使用が前提となる。
よって、アトピー性皮膚炎の炎症を速やかにかつ確実に鎮静させ、
患者の苦痛を取り除ける薬剤で広く使用でき、その有効性と安全性が
十分に評価されているものは現在のところステロイド外用剤の他にはなく、
如何にそれを選択し、使用するかが治療の基本となる。
薬剤であるが故、ステロイド外用剤には当然副作用、特に局所性の副作用はあるが、
効果の高さと局所性の副作用の起こり易さは一般的には平行することから、
必要以上に強いステロイド外用剤を選択することなく、皮疹の重症度に見合った薬剤を
適正に選択することが重要である。
従って、「個々の皮疹の重症度」に応じて次のような選択を行う。
重症
必要かつ十分な効果を有するベリーストロングないしストロングクラスのステロイド外用剤を第一選択とする。
ミディアムクラス以下では通常十分な効果は得られない。
痒疹結節でベリーストロングクラスでも十分な効果が得られない場合は、
その部位に限定してストロンゲストクラスを選択して使用することもある。
中等症
ストロングないしミディアムクラスのステロイド外用剤を第一選択とする。
ウイーククラスでは通常十分な効果は得られない。
軽症
ミディアムクラス以下のステロイド外用剤を第一選択とする。
軽微
ステロイドを含まない外用剤
(ワセリン、尿素軟膏、ヘパリン類似物質含有軟膏、亜鉛華軟膏、親水軟膏など)
を選択する。
ステロイド外用剤の剤型:軟膏、クリーム、ローション、テープ剤などの剤型の選択は、病変の性状、部位などを考慮して選択する。
◆外用回数◆
1日2回(朝、夕:入浴後)を原則とする。
ただし、ステロイド外用剤のランクを下げる、あるいはステロイドを含まない外用剤に
切り替える際には、1日1回あるいは隔日投与などの間歇投与を行いながら、
再燃のないことを確認する必要がある
アトピー性皮膚炎治療ガイドライン より一部抜粋。
アトピーで病院に行かれたことがある方はこれを読めば、納得されるでしょう。
病院では何の疑問もなく、この通りに処方されます。
以下が、ステロイドの副作用の例です。
皮膚萎縮
表皮が薄くなり、静脈が透けて見えたりします。
弱い力でも出血し掻き壊しやすくなります。
脇の下、大腿部、わき腹などに見られます。
ステロイド潮紅
顔全体が赤くなり(赤ら顔)、赤いポツポツもできることがあります。
成人に多い。
ステロイド紫斑
皮膚全体が薄くなっているので、ちょっとした刺激で内出血、黒あざのようなものができます。
老人に多い。
毛細血管拡張
毛細血管が肉眼で見えるようになります。
多毛
ステロイド外用部は他と比べて毛が多くなります。
小児に多い。
感染症の誘発、悪化
ステロイドは免疫力を低下させるので、擦り傷などがあるところに使用すると感染症などを併発する事があります。
副腎皮質機能低下
ステロイドは副腎皮質ホルモンなので、最強のステロイドなどを多量、長期に使用すると
体内の副腎皮質が合成しなくていいと勘違いし、機能が低下します。
ステロイド緑内障
眼圧が高く、視野が損なわれ視力も低下します。緑内障を放置すると失明の危険があります。
ステロイド白内障
目のレンズの役割をしている水晶体が濁ってきます。かすんで見えたり、視力が低下します。
ステロイドホルモンは、それ以外のホルモンに比べ、
その受容体がほぼ全身にあるという特徴があります。
そのために、広範囲の疾患に有効ですが、反対にまた副作用も広範囲に起きてきます。
副腎
<1>副腎の内部:
「副腎髄質」と呼ばれアドレナリンとノルアドレナリンを分泌しています。
<2>副腎の外側:
「副腎皮質」と呼ばれ、副腎皮質ホルモンを分泌しています。
副腎皮質はさらに3層に分かれています。
外側から『球状層』と『束状層』、内側が『網状層』と呼ばれています
◆球状層◆
「アルドステロンが分泌される。
これは血漿の塩分(ナトリウム・カリウム)、血圧および血液量の調節を
行っているホルモンで、このグループのホルモンを
『鉱質コルチコイド(ミネラルコルチコイド)』と呼びます。
◆束状層◆
「主にコルチゾールを呼ばれるホルモンが分泌される。
この系列のホルモンでは糖代謝などに影響を与えるので、
『糖質コルチコイド(グルココルチコイド)』と呼ばれています。
◆網状層◆
「網状層からは性ホルモン、主にアンドロゲンと呼ばれる男性ホルモンが分泌されます。」
代謝作用
◎健常者の副腎から、コルチゾル(ステロイドの一種)に換算して、
1日当たり20~30mgのステロイドが分泌されています。
それが体内の血糖・脂肪・電解質・骨・筋肉の代謝に働きかけています。
【糖代謝】
ステロイドは、肝臓で糖を合成する働きを高めます。
さらに、筋肉組織などが糖を利用するのを阻害します。
その結果、血糖値が上がりやすくなります。
そのため、糖尿病の患者はもちろん、糖尿予備軍の方も注意が必要です。
【脂肪の代謝】
ステロイドは、血液中のコレステロールや中性脂肪値を上げます。
又、手足などの体の先端部分の脂肪組織から脂肪を放出させる作用もあります。
そのため体の中心部で肥満が現れてきます(中心性肥満)。
【電解質作用】
ステロイド薬は、血液中のナトリウムを増加させ、カリウムを減少させます。
ナトリウムが増えると、同時に体内の水分も増えるため、
血液量そのものが増え、血圧が上昇します。
カリウムが減少すると、筋肉の収縮がうまくできずに脱力感を感じたり、
心臓の筋肉が正常に収縮できなくなって心電図に異常が出たり、
心不全に陥ることがあります。
例えばコルチゾンは、プレドニゾロンの約2倍の電解質作用があります。
【骨の代謝】
ステロイド薬は、骨の形成を低下させ、骨吸収を高め、総合的には骨量を低下させます。
【筋肉代謝】
私たちの筋肉は黄紋筋(=随意筋)と平滑筋に分かれています。
肝臓で糖を合成するための材料として、筋肉組織のタンパク質を分解し、
アミノ酸に変えて血液中に放出します。
その結果、筋力が低下することがあります。
→「横紋筋融解症」
中枢作用
レム睡眠の状態では、ものを考える大脳皮質の眠りは浅くなります。
また、ステロイド薬はムードや行動に影響を与えます。
抗炎症作用
ステロイド薬の抗炎症作用は、ほかのどの薬物よりも強力です。
ステロイド薬は、炎症が起こるときに必要なサイトカインとプロスタグランジンの
産生と作用をブロックして炎症を抑えます。
また、炎症をひどくする白血球の働きを抑えたり、血管の透過性を抑えることで、
その抗炎症作用を高めます。
免疫抑制作用
免疫では白血球が主役で働いています。
白血球はリンパ球の仲間です。
リンパ球は血液中やリンパ節などの中にいて、自分の体と同じ成分かどうか
識別する能力があります。
そして、自分の成分でないものを見つけると、それを異物として分解・処理します。
このような働きを免疫といいます。
リンパ球が働きすぎて異常を起こし過剰に反応したのがアレルギーで、
識別能力が狂って、自分の体を異物と勘違いしたのが自己免疫疾患です。
ステロイド薬はリンパ球相互の働きを抑えたり、リンパ球が作り出す抗体を減少させたりして、
免疫を抑えたり、アレルギーを抑えます。
副腎機能
抑制作用
副腎だけではステロイドは出来ません。
脳下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が必要です。
さらにそのACTHは大脳の視床下部でつくられるコルチコトロピン刺激ホルモン(CRF)に
コントロールされています。
すなわち、CRF→ACTH→ステロイドの順で作られます。
そして作りすぎをコントロールするためにステロイドから下垂体・視床下部に
直接働きかけることができます。
★ステロイド薬を飲むとどうなるのでしょうか?
<1>1錠飲むと、数時間、CRFやACTHは分泌されなくなります。
そして血液中のステロイドが無くなると、CRFやACTHは再び分泌されるようになります。
<2>1日6錠、分3で飲むと、その日はCRFやACTHは出なくなります。
1週間以内の服用であれば、ステロイドを止めた段階でCRFとACTHはすぐに分泌を始めます。
1週間以上続けると、CRFとACTHを作り出す機能そのものが衰えてきます。
さらに、副腎もACTHの刺激が無いのでステロイドを作らず萎縮していきます。
<3>ステロイド薬を1週間以上飲み続けているときに、急にステロイドを止めると、
自分の副腎ではもうすでに自分のステロイドを作れなくなっているので、
体内にステロイド不足が起こります。
そのため、ステロイドは急に止めないことが大切です。
ステロイドについての説明はここまで。